東武東上線はなぜ本線系統のように有料特急が存在しないのか?

グリーンリーブ

みなさん、こんにちは!交通系解説担当のグリーンリーブです。

前回は「川越特急」について解説しましたが、今回は少し視点を変えて、東武東上線に「なぜ有料の特急列車がないのか?」**という疑問に切り込んでいきたいと思います。

東武東上線は、池袋から寄居までを結ぶ路線で、全長は約75km

これは、同じ池袋をターミナルとし、副都心線への相互直通運転(5社直通)も行っている西武池袋・秩父線とほぼ同じ距離です。

西武池袋線には、ご存知の通り、秩父方面へ向かう特急「ラビュー(Laview)」が運行されています。

しかし、東上線にある速達列車は、座席指定で通勤特急の役割を持つ「TJライナー」(西武でいうS-TRAIN相当)と、無料特急の「川越特急」(実態は快速急行)のみ。

なぜ東上線には、西武のラビューや、東武鉄道の本線(伊勢崎線・日光線)で運行されている「スペーシア」のような本格的な特急列車がないのでしょうか?

くろと

意外と距離があるからあっても不思議じゃない気がするけどなんか理由があるんでしょうね

その理由を徹底的に解説していきましょう。


目次

観光施設がまず少ない:東上線と東武本線で目的が異なる

まず、最も大きな理由の一つが、路線の持つ「目的」と「観光資源」の違いです。

くろと

東武鉄道には、本線と東上線がありますが、そもそも役割が違うということですか?

グリーンリーブ

東武鉄道の本線系統(スカイツリーライン、日光線、伊勢崎線など)は、池袋ではなく浅草や押上(スカイツリー)をターミナルとし、その先の**「観光地」への輸送を主要な使命としています。

路線ターミナル主な観光地運行される特急(例)
東武本線浅草・押上日光、鬼怒川温泉、浅草、東京スカイツリー、東武動物公園スペーシア X、リバティ、りょうもう
東上線池袋川越TJライナー(通勤特急)、川越特急(無料特急)
グリーンリーブ

本線系統の観光地は、国内外からの観光客を多数集めるビッグネームばかりです。
例えば、日光・鬼怒川温泉へは、浅草から約2時間かけて直行できる特急の需要が非常に高い。これらの特急は、有料特急として収益の柱になっています。

スイレン

ふぅん、東上線にあるのは川越だけ?なんか寂しいね。

東上線沿線には、川越という素晴らしい観光地がありますが、それ以上の遠方で全国的な集客力を持つ観光地がありません。

西武鉄道であれば、所沢の西武球場(臨時)と西武園ゆうえんち、飯能のムーミンバレーパークや、その先の秩父という大規模な観光エリアがあります。

東上線の場合は、池袋から川越まで約30分と非常に近く、通勤電車である急行や快速急行でも十分に速達性が確保できてしまうんです。

くろと

短い距離であれば、わざわざ料金を払って特急に乗るメリットが薄れてしまうということですね。

グリーンリーブ

まさにその通りです。東上線は、どちらかというと池袋への通勤・通学輸送がメインであり、純粋な観光特急の需要がそこまで見込めない、というのがまず第一の理由です。


東武からすれば75kmの路線は短すぎる?

次に、東武鉄道全体から見た時の「路線の長さ」という観点です。

東上線の営業キロは約75kmで、都会側の終点の小川町駅(62km)まで行っても池袋から約1時間程度で到着します。

くろと

1時間で62kmはかなり速いですよね。

グリーンリーブ

しかも、東上線は全線にわたって非常に列車本数が多いんです。

森林公園駅までは、日中でも最低10分に1本は列車が運行されており、池袋から乗れば、待たされることなくいつでも座席に座って出発できます。

グリーンリーブ

一方で、東武本線系統の特急が向かう先はどうでしょうか。

特急列車始発~終点(例)所要時間(目安)
スペーシア X浅草~東武日光約1時間50分
りょうもう浅草~赤城(群馬県)約1時間45分
リバティ会津浅草~会津田島約3時間50分

ご覧の通り、東武の本線特急は、1時間半から4時間近くをかけて運行される、長距離移動を前提とした列車なんです。

加えて日光線や伊勢崎線の末端区間では1時間に1~2本しか本数がないので特急の意味が大きいです

東武鉄道にとって、62km、所要時間1時間という東上線は、「通勤特急(TJライナー)で十分対応できる距離」という認識があると考えられます。

グリーンリーブ

あとは両数だね

東上線の都会側は現在ほぼすべて10両編成で運転されており、8両や6両といった短い編成はあまり走らせたくないのが実情。

それに前述の通り輸送力的に10両は明らかに過剰であり、東武本線系統でも6両でも十分に賄っていることや増発でも対応できる設計で見ても10両の意味がないということ・

東上線は長距離を快適に移動するための「有料特急」を走らせる必要性が低いわけです。

スイレン

10分に1本も電車が来るなら、急いでなくてもいつでも乗れるから、特急じゃなくてもいいもんね!

グリーンリーブ

利便性が高ければ、特別にお金を払って速達列車に乗る動機が薄れますね。東上線は、「高頻度運転」によって速達性ニーズに応えている、とも言えるでしょう。

とはいえ実は東上線もかつては使用しなくなった東武1800系を転属したうえで検討されたそうだが、現状のTJライナーや川越特急などで見ても朝晩以外は着席ニーズがないことやトイレ設備がない森林公園の車両基地を考えると導入しなかった。


東武の特急改札はめっちゃ厳密!TJライナーも例外ではない

グリーンリーブ

そして、東武鉄道が有料列車に対して持っている**「厳格な運用ポリシー」**も大きく関係しています。

東武鉄道は、座席指定列車有料特急について、不正乗車を許さない非常に厳密な仕組みを構築しています。

くろと

TJライナーも座席指定で有料ですが、何か特別なルールがありますか?

: もちろんです。ご存知のように、TJライナーの始発である池袋駅の5番線には、特急券・座席指定券を持っていない人をシャットアウトするための専用の改札が設置されています。

この改札を通らなければ、TJライナーのホームに立ち入ることすらできません。

グリーンリーブ

さらに、TJライナーの座席指定が有料となる区間にも、厳格なルールがあります。

TJライナーの料金発生区間

下り(池袋発)池袋駅 → ふじみ野駅の間のみ座席指定券が必要です。

上り(森林公園・小川町発)全区間座席指定券が必要です。(始発駅から終点池袋まで)

グリーンリーブ

つまり、下り列車の場合、ふじみ野駅を過ぎれば座席は空席待ちとなり、以降は特急券なしで自由に座れるんです。これは**「長距離の通勤特急」**としての役割を重視しているためです。

もし東上線に、長距離の観光特急(ラビューやスペーシア相当)を走らせるとなると、全区間で有料とする必要が出てきます。

しかし、東上線の主要な駅には、浅草駅のような特急専用改札のスペースがありません

厳格な東武のポリシーと、沿線駅のインフラが、全区間有料の特急導入を難しくしている一因と考えられます。

スイレン

改札がないと、みんなお金を払わずに乗っちゃうかもしれないもんね!

グリーンリーブ

そのリスクを排除するために、東武は徹底しているわけですね。既存のTJライナーの運用を見ても、有料特急を走らせるための物理的・運用的なハードルが高いことが分かります。


今後東上線に特急は走るのか?

ここまで解説してきた理由を踏まえると、現時点、そして当面の間、東武東上線に「ラビュー」のような有料特急が運行される可能性は極めて低いと結論付けられます。

東上線は通勤路線であり、有料特急を必要とする長距離・大規模観光地が少ない。

現在、東上線で最も新しい車両である50000系列(50090型含む)は、基本的に「トイレ設備」がありません

長距離・長時間の有料特急を運行する場合、お客様の快適性の観点からトイレの設置は必須です。

西武のラビュー、東武本線のスペーシアも全てトイレ付きです。

くろと

確かに、1時間半や2時間乗るのにトイレがないのはきついですよね。

グリーンリーブ

もちろんだが仮に有料特急を走らせるとなると、専用の新型車両を導入する必要があります。
しかし、前述の通り、そこまでの需要が見込めないため、車両投資をするメリットがないと東武は判断しているでしょう。

短距離である川越への速達は川越特急や急行で十分。

座っての通勤需要はTJライナーで対応済みです。

グリーンリーブ

つまり、東武東上線は、有料特急を走らせる代わりに、TJライナー無料の速達種別を組み合わせることで、「通勤と観光の両方のニーズに効率的に応えている」**と言えます。

西武鉄道と似たような距離ではありますが、路線の特徴、車両設備、そして東武の運用ポリシーが、東上線に「有料特急がない」という現状を生み出しているのです。

くろと

西武と東武の本線の違いを比べると、東上線の特殊性がよく分かりました。東上線はまさに「首都圏の通勤路線」という役割に特化しているんですね。

スイレン

なるほどー!トイレがない電車じゃ、長旅は無理だもんね!グリーンリーブ、ありがとう!

: いえいえ、交通系の疑問は僕にお任せください!これで皆さんも東上線の事情に詳しくなれたはずです。

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